イングリッシュガーデン殺人事件



カテゴリ:[ エンターテイメント ]


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[58] その53(訂正)

投稿者: marie004 投稿日:2018年 7月15日(日)16時50分29秒 af205239.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp  通報   返信・引用

あたふたと原田老人が外に出て行く。どうやら、葉月を探しに行ったらしい。
「だいたい、章一郎がここを出て行くことになったのは……」
「おばあ……静音さま。シャンパンはいかがですか? ドン・ペリですのよ」
不自然に藤緒の甲高い声が話をさえぎる。藤緒の目配せに応えて、さっとリエがバスケットをのせたワゴンを引いて来る。
「あたしは、そんなホストクラブで飲むような代物は好きじゃないねえ」いいながら、老女はグラスを受け取る。「そう言えば、ほれ、なんとかタワーっちゅうのがあるそうじゃないの。あれをここでやっておくれ」
「は?ドン・ペリでですか?」「あったり前じゃわ~」
それこそ、ホストクラブ……奥で誰かのつぶやきがするが(幸い、聞こえなかったらしい)、とにかく、ここは静音さまのご機嫌を直さなければならない……

さて、やっと葉月である。一生と親密に語り合ってときが経つのを忘れ、はっと気付いたのは自分を呼ぶ声が聞こえたからである。
「わたし!そうだわ!!大変!!3時に静音さまとかいうおばあさまが……」
おろおろする彼女の前に、遠くからゆっくりと姿を現わしたのは、なんと惟吹である。一種皮肉な微笑を浮かべて近づいてくる彼の顔は、ぞくりとするほど美しくてめまいがした。
「ごめんなさい。わたしったら……」
「いいですよ。どうせ、あんなばあさんなんか」惟吹は葉月と一生をじろじろと見て、次に吐き捨てるようにそう言った。
「どうしますか? 探してくるように頼まれたけど、うまくごまかしてあげてもいいですよ。なんでも、お嬢さんは着物が苦しくなって具合がわるくなり部屋で休んでることになってます」
「そんな……だって、リエさんが、とても上手に着付けてくれて苦しくなんかないのに、そんなウソはつけないわ……」
「じゃあ、今から一緒に行きますか? あのばあさん、ご機嫌斜めもいいとこですよ。それから、一生さまはどうされますか?」










[57] その53

投稿者: marie004 投稿日:2018年 7月13日(金)10時39分35秒 af205239.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp  通報   返信・引用

「結婚に反対されたからね。やれやれ、バカな子だわ。二十歳やそこらで好きになった相手にのぼせあがって。そう、たしかに、猛反対したのは、このあたしですよ。あたしは、弥生さんに言ったのよ。あんたが甘やかすからこんなバカ息子になったんだって。女中なんかと駆け落ちしようだなんて……!!」
「静音さま!!」さすがに、原田老人が昔話を止めに入った。
「今、静音さまのために素晴らしいケーキが出来上がりました! さあ、リエちゃん、運んでおいで!」



[56] その52

投稿者: marie004 投稿日:2018年 7月13日(金)10時22分38秒 af205239.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp  通報   返信・引用

静音さまの老眼鏡越しのしょぼしょぼした目がゆっくりと周囲を見わたし始めた。(例えるなら、「ロード・オブ・ザ・リング」の目!)見られた者は、息を止めて生きた心地もない様子。
「おっやあ~?」静音さまは不満を漏らす。「章一郎の娘はいったい誰だい? あんたかい?」
指さされた者はあわてて首を振る。
「わざわざ顔を見に来たというのに、どういうこったい。どこにいるの?」
おかしいほど藤緒があわてる。「まあ、ホントだわ。葉月さんはどこにいるの?」
「すみません。お具合がよくないとかでお部屋でお休みに……」リエが助け船を出す。
「そうそう、着慣れない着物を着たせいだわ。おばあ……静音さま、今、呼びにやりますから」
「い~や!!」いやにはっきり老女は否定する。「あたしに会いたくないんだね」
「そんな……」藤緒は絶句する。「だって、彼女は……」
「い~や! 昔のことを恨みに思っているんだよ!藤緒、お前も甘いねえ。考えてご覧。本当なら、この家の当主は章一郎! 今頃、この屋敷で贅沢三昧しているのは、お前じゃなくてその娘のほうだったんだよ!」
「でも、章一郎伯父さまは、ご自分で縁を切って出て行かれたのですから……」



[55] その51

投稿者: marie004 投稿日:2018年 7月11日(水)11時14分46秒 af205239.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp  通報   返信・引用

この段階で、ものめずらしさで参加していた人達は、当然のことながらほうほうの体で逃げ出してしまった。
残っていたのは、静音さまに向かい合って座っていたあの3人組の有力者夫人たちと、藤緒、後方で高みの見物を決め込んでいた大ちゃんと万智、あとは、使用人のリエと原田老人だけである。(手伝いの人達ですら、キッチンに逃げ込んでしまった!そして、惟吹は奥に引っ込んだきりである)
3人組も失礼したくてたまらないのだが、なにせ目の前なので、どんな皮肉を言われるかと思うと腰を上げられないのである。しかも、目配せひとつできない状況である。
「芦田建設さんや、お義父さまはお元気かい?」
知ってか知らずか、静音さまは若夫人(とは言え、40過ぎであろう)に声をかける。
「は、ハイ」「また、阿漕なことして儲けてるんだろうねえ。あんたんとこで建てたビルは鉄筋が弱いってもっぱらの評判だよ。町長と談合してるってウワサは本当なんだろう?」
「い、いえ、それは……」高慢な夫人も形無しである。
「蓮照寺さんや、住職さんはあいかわらずかい? あたしが死んでも、あんたんとこでは頼まないからね。あんな下手くそなお経を読まれちゃ、成仏できないわ」
奥さまは、またしても涙ぐむ。
「高橋病院さんや、お義父さんの院長さんは、まだ患者を診てるンだって?! 90近の老人がおっそろしいこった」
「あらでも、お義父さまは、とってもお元気で、ご高齢の患者さんには評判いいんですのよ」
見かけよりも気丈なのか、夫人はなんとか言い返す。
「もう何年も村の人たちを診てますから……」
「近場にはあんたんとこしかないからねえ」
会話に飽きたのか、静音さまは、大仰な身振りでため息をつくと、「ああ、おいしいものが食べたいねえ」とのたまった。



[54] その50

投稿者: marie004 投稿日:2018年 7月11日(水)10時23分0秒 af205239.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp  通報   返信・引用

さて、お気付きのことと思うが、この場には葉月はいない。さっき、リエちゃんに言われた「3時から云々かんぬん…」のくだりをすっかり忘れてしまったのである(そりゃ、一生くんと話しているほうが楽しいわ~)。もちろん、リエたちに彼女を呼びに行く余裕もなく、それどころか、静音さまの圧倒的迫力のせいで、彼女がいないことに誰も気付かなかった。

おそろしい沈黙が続いた後、突然、静音さまが咳き込んだ。まあ、老人のこととて食べ物がむせるのはよくあることだが、おかしいくらい皆は狼狽した。さきほどの毒がどうした、というせりふが強く頭に残っていたからであろう。
「お、おばあ……、静音さま、大丈夫ですか?」藤緒でさえ、声が震えている。リエが、ミネラルウォーターの栓を開けてグラスに水を注いだが、おかしいくらい手間取った。
静音さまの咳は激しくなり、ゴホゴホゴホゴホと不気味な音を立てた。ようやく運ばれたグラスから苦しそうに水を飲み込むと、「ああ、苦しい、苦しい、毒殺される……」と一声高く叫んで喉をかきむしりテーブルに突っ伏した。
会場は大パニックである。悲鳴をあげる者、逃げ出す者、失神しそうになる者……
原田老人が飛んできて、静音さまのからだを持ち上げ、口をなんとか開かせて指を入れようとしたそのとき。
老女は、何事もなかったようにぱっちり目を見開くと「吉郎、もういいわ。あんまり、このスコーンがボソボソするもんだから喉に詰まってしまったよ」
さわやかな口調で言い放つと、静音さまはゆっくり赤ワインのグラスを持ち上げ、にんまり笑って飲み干したのである。




[53] その49

投稿者: marie004 投稿日:2018年 7月 9日(月)10時47分13秒 af205239.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp  通報   返信・引用

静音さまの前の食器が片付けられて、黒ビロードが貼られた七宝細工の箱が3つばかり置かれた。
親指ほどもあるいくつものルビーをダイヤで取り巻いたネックレスとイヤリングのセット、それとおそろいのティアラ。いろいろな色の宝石を精緻にはめ込んだフラワーバスケットのブローチ、珍しい緑のアクアマリンのティアラとネックレスとイヤリングのセット……一つのアクアマリンは2センチ×4センチぐらいある……、イエローダイヤモンドで作ったひまわりの花のブローチ、無数とも思えるダイヤでぐるりを取り巻かれたびっくりするぐらい大きなサファイアの指輪、鮮やかな紫色のしずく型のアメジストのイヤリング……

ルーペを手に、ひとつひとつを静音さまはためつすがめつ丁寧に点検していく。
村人たちの中には席を立ってその様子を眺めに来る人もいる。さすがの静音さまもそれをとがめるようなことはしない。なにしろ、ひとつが何千万、ものによっては億の単位かもしれない宝石である。そう何度も拝めるものではないからだ。
「ん?」「おや?」静音さまがつぶやくたびに、みな生きた心地がしない。これは偽物だ!さては、売ってしまったわね!と怒鳴り出されたらえらいことだからである。

「藤緒。お前、いくつになるの?」いきなり、急所を突く質問が飛んでくる。
「わ、わたしですか……」青ざめた藤緒に、「石女のまま終わるんだろうねえ。かわいそうに」
気の毒に怒りのあまり失神しそうになっている彼女を楽しそうに横目で眺めながら、
「お前は絢乃とはぜんぜん似てないねえ。ねえ、そこの。(彼女は自分と同年配らしき老人に向かってあごをしゃくって)あんたもそう思ってるんだろう? あれは、そりゃあ、美しくて気立ても良く賢い娘だった。母親に比べると、お前は鼻も低いし、目だって小さいねえ」
「静音さま。それはあまりのおっしゃりよう……」後ろに控えていた原田老人が口を挟む。
「ふん!何を言ってるんだい。吉郎、お前が絢乃を女神みたいにあがめていたのを知らない人はいないよ。お前が、若い頃は東京でちゃんとした固い勤めをしていたのに、こんな山奥までやってきた理由はなんなんだい?」
静音さまはおもむろに大きなトラピッチェエメラルドを取り上げた。切手ほどの大きさの大きな方形のエメラルドの中に、十文字の光が浮かび上がるのを見て、みな一斉にどよめいた。
「あたしはね、この頃思うんだよ。吉郎。絢乃は本当に死んだのかしら、とね」
きいん、と空気が凍り付くのが分かった。
「車の中の遺体は黒焦げになっていて誰だか分かったもんじゃなかった。そして、あのフェベルジェのイースターエッグがなくなっていた。そこのあんたたち(村人である)だって、あのエッグのなかにうちのお宝の在処が隠されてるって知ってただろ? 絢乃には好きな人がいたんだよ。夫以外のね」
さて、このときにリエだけが冷静だった。手品のようにトラピッチェエメラルドが静音さまの手のひらからたもとのなかにすべり落ちるのを確かに見ていたのである。



[52] その48

投稿者: marie004 投稿日:2018年 7月 8日(日)20時13分57秒 af205239.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp  通報   返信・引用

「お、おばあさま。ワインはいかがですか?」
さすがの藤緒の声も引きつっている。「年代物を手に入れましたのよ」
「ふうん~ あんた、毒なんか入れたりしてないだろうね」
全員、口の中の飲み物を吐き出しそうになる。
「な、なんてことを…… なんなら、目の前で開けさせますわ」
「あ、それから、あたしは、あんたの祖母じゃないんだから、おばあさんはよしておくれ。」
「はあ……」
「で、藤緒。お前、家宝の宝石を売り払ってなんかいないだろうねえ」

来た~!!藤緒もそばで給仕していたリエも原田老人も身構える。
「わ、わたし、宝石を売り払うなんてしてませんわ」
「どうだかねえ。原田、今から金庫に行って、取っておいで」



[51] その47

投稿者: marie004 投稿日:2018年 7月 8日(日)16時43分7秒 af205239.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp  通報   返信・引用

アフタヌーンティーというのは、サンドイッチに始まって、カナッペやフィンガーフード、スコーン、ケーキと続く軽食で、櫻楓館では種類ごとにお客に出される決まりである。もちろん、静音さまはすべての味にケチを付け、しかし、一口も残さずお召し上がりになった。そして曰く「ああ、まずい!もっと、おいしいものが食べたいねえ!」
ぎゃふん!とずっこけたいところを皆ガマンする。静音さまの前には藤緒が神妙な顔つきで座っているが、「ハイ」と「イイエ」しか言わない。
「藤緒さん。相変わらずの派手ななりだわねえ。その着物、もっと若い娘の着るモンじゃないのかねえ」
「あら、おばあさま。これ、小紋ですのよ。お客さまより控えめにしようと思って……」
「へっ!」静音さまは、咳とも間投詞ともつかないへんな声を出す。その後よく言うわ、と聞こえたような。
「そこの芦田建設の」今度は、斜め横でスコーンにクリームをぬってかぶりついていたキツネ目の婦人に向かってあごをしゃくる。「あんたも、えらい張り切ってるわねえ。だいたい、本物の垂れ桜が咲いてるってのに垂れ桜の柄だなんて野暮だこと」ボソボソとイヤミが続く。「蓮照寺さんの。あんた、その着物どっから引っ張り出してきたの。そんな古着を着てくるなら、ちったあ痩せたらどうなのさ」
ひとのよい奥さんは涙ぐんでしまう。



[50] その46

投稿者: marie004 投稿日:2018年 7月 8日(日)14時54分51秒 af205239.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp  通報   返信・引用

「わたし、小さいときから絵が上手ってほめられてて……授業中にさぼってノートに絵ばかり描いていたのよ。そうね、人生の半分は絵を描いてきたと思う。だから、大きくなったら」
「画家になりたかった?」「……笑わないで」「笑ってないよ」
「本当は、中学校の美術の先生にでもなればよかったのかも」「こんなかわいい先生だったら、中学生大喜びだね」「無理よ。人前でしゃべるって……恥ずかしくて」

さて、その頃。
静音さまが杖をつくコツコツという音がすると、誰かがつばを飲み込むゴクリという音が聞こえた。始めに原田老人がドアを開けて入ってきて、静音さまの座る中央の椅子を引いた。
姿を現した老婦人は思っていたほどよぼよぼではないので、一同は驚いた。銀色の髪は(付け毛もあるだろうが)きちんと結い上げられて、おしゃれな老眼鏡はピンク色のフレーム、ラベンダー色のレースの手袋に包まれた手には、大きな赤や緑や紫の指輪がはめられている。驚くべきはしわが目立たないその顔で、歌舞伎役者でもここまでは……というくらいにおしろいが分厚く塗られている。頬紅と口紅は鮮やかなローズピンクで、なるほど、ここまで高齢だとピンク色が映えるという見本のようである。
彼女はぐるりを見わたして「ごきげんよう」と挨拶した。ほとんどくちびるを動かさないのでもごもごとくぐもって聞こえた。
「お久しぶりでございます」「お元気そうですのね」「お会いできてうれしいです」等々、みなが声を掛ける。
静音さまのために、原田老人が椅子を引いて、クッションを置いたり、膝掛けを置いたりする。リエがワゴンを引いてきて進み出、銀色に輝くポットを持ち上げて静音さまのティーカップにお茶を注ぐと、
「おや、汚いポットだねえ」とのたまった。「磨き方が足りない!」「すみません」リエは謝って早々に引き下がる。「おまけに、うすい!」老婦人は音を立てて紅茶をすすりながら、またもやイヤミをたれる。
この段階で、もはや村の人達は腰が引けている。
静音さまのイヤミを合図にしたように、出席者たちは、一口二口サンドイッチをつまむと、そーっと席を立つ。近くの出席者はそうもできず、居心地わるそうにもぞもぞする。



[49] その45

投稿者: marie004 投稿日:2018年 7月 7日(土)14時23分52秒 af205239.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp  通報   返信・引用

「ねえ、葉月さんのこと教えてくれる?」
一生の目はどうしてこんなにやさしくてじーんと心にしみ込むような温かさをたたえているのだろうか? なんでも話してしまいそうになる自分がちょっとこわくなる。
「話すことなんて…… ふつうよ。ぜんぜん。あなたのお祖父さまがうちに訪ねてみえられるまで、母と二人で国立の小さな家に暮らしていたわ。母は、父が亡くなってからピアノの教師をして暮らしを立てていたの」(リエちゃんの予想は3割くらいは当たっていたわけですね)
「ふうん~ お父さんは本当になんにも櫻楓館のことを一言も言ってなかったの?」
「母は、すっごく驚いていたのよ! 父のことを天涯孤独だと信じていたというの。それも、どうかと思うわ。だって、結婚するのになにも調べないで言われるまま信じていたなんて……」
「じゃあ、さぞ驚いただろうね」
「ええ。でも、助かったというのが本当のとこかしら? だって、そろそろ貯金がつきかけていて……」
言ってしまってから、はっとなって口をつぐんだ。わたしったら、こんなことまで話すなんて…… しかし、相変わらず一生はやさしげに葉月を見つめていた。
「お母さんは苦労されたんだろうね」
「そうなの。母を助けて働かなくちゃいけないのに、わたしったら美大なんか出ちゃって」
「え? きみって美大生だったんだ。どこの?」
「星々美大……」「え?あそこ、けっこう難しいでしょ? 優秀だったんだね」
一生に褒められると、素直にうれしいと感じることができた。


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